短編「母の死」
- 2015/07/07
- 00:11
短編「母の死」
母の事を幾つか書き残しておきたいと思う。
ずっと前から漠然と温めてきた考えだったが今に至るまで実行に移さなかったのは、私の中で母が今も生き続けていて、もうどこにもいなくなった現実に向き合いたくなかったからだろう。
息子の目から見た母の生を知る限り書き写してしまう事によって私の中で母が終わってしまう、消えてなくなってしまう、そんな気がして何年も逃げ続けてきた。
私の母親は美しい人だった。
美人、という言葉通りに受け取れる女だったかは分からないが、少なくとも誰の手も借りず女手一つで私を育て慈しみ愛してくれた母は人として美しかった、と私は今も思う。
掛け替えのない、たった一人の母親であり私の知る唯一の肉親…母は初めから私にとって特別な存在だった。
私が生まれた土地は北関東の寂れた元炭鉱町で、思春期を過ごす頃にはもちろん往年の面影なんてまったくなかった。
戦前なら出稼ぎ労働者で賑わっていたらしいが、今となってはあちこち産廃置き場となって県内のゴミを集めては焼いたり埋め立てて何とかやっている冴えない田舎町だった。
これといった産業も企業もなかったから、父は母と結婚してすぐ頃から1年の大半を街に働きに出ていたらしいが、私の記憶の中にはない。
気付いたら未亡人になっていた母は父方の祖父の代から残っていた土地を処分して何とか生計を立てていた。
昔はこの辺は我が家の土地だった、とそんな話を幼い頃に聞かされた事もあったが、今は全て他人のものになってしまっていた。
経済的にそれなりに安定していて不安はなかったが、元は大地主の家に来た嫁という立場のためか、ついに母は再婚することはなかった。
そんな田舎町にあっても母は乏しい働き口を求めていた。
記憶の中の母はいつも違う仕事をしていて新聞配達やスーパーの店員、駅舎の清掃員‥あれこれ働き口を変えながら田舎町で何とか私を育ててくれていた。
貯金を取り崩すだけの暮らしではいけないと思っていたのだろう。
線が細く美しかった母には似合わず、いつも汗と疲れにまみれた人生を送っていた。
父親がいないという事は私にとって少なくない引け目だったけれど、母は他に代わる事のない絶対的な誇りとして私の中にあった。
他の家の子供とはまったく様相の異なる家だったけれど、少なくとも私は母のおかげでコンプレックスの塊にはならずに済んだ。
母親を美人だと思える事は息子にとって大切なことだと思う。
それがあるだけで、他の何が欠けていたとしても幸せを感じる事が出来るのだから。
私が中学校に進学した年の夏休みの事だと思う。
マスコミでは冷夏だと騒いでいたけれど、その日はひどく暑かった。
テレビでは毎日高校野球の中継がやっていた。
昼下がりに母と二人で応援していた母の郷里の学校が破れるのを見ていた。
「あ~あ、負けちゃった…」
そう言いながら苦笑いして見せた母の様子から、まだ遠い昔に過ごした故郷への愛着が母の中で消えていない事を知った。
こちらに嫁に来てから故郷に一度も帰っていない事情は分からなかったけれど、何かが母にある事は子供心に分かっていた。
「暑いね、シャワーでもしよっか」
敗戦からの切り替えのためか、わざと明るく言う母の言葉に素直に従ったのはまだ私自身が幼かったからだろう。
広くない風呂場でかわるがわる温いシャワーを浴びせ合う。
まだ小さかった頃は毎日のように一緒に入っていたが、高学年になった頃からは別々で入るようになっていた。
「大きくなったね…」
合間に私の肩に手をかけた母が寂しそうに言ったのを今も覚えている。
いつも幼い頃から見上げていた母は気付いたらほとんど変わらないくらいの背丈になっているのにその時初めて気づいた。
僅かに目線を上げてみた母の顔が今までに無く、近く見えた。
それから上がる時、ふと私は初めて母の肉体に目が行った。
シャワーのぬるま湯が母の丸みを帯びた乳房の間を流れ落ちて窪んだ臍を伝い、黒い陰毛の中に流れ落ちていく様子を見ていると、思わず私は見慣れていたはずの母の体が今まで見た事のない蠱惑的な魅力に満ちているように思えて目を逸らした。
風呂から上がると買い物に出かける母を見送って再放送のアニメを見ながら、私はさっき見た母の肉体を何度も思い起こしていた。
数年たって私は高校生になっていた。
地元の冴えない工業高校に通っていた私は中学時代よりも女っ気のない毎日にうんざりしていた。
ある日、学校から帰ってくると珍しく母が居間のソファに凭れて眠っていた。
疲れているんだろうな…そう思いながら私が鞄を部屋に置いて着替えてきてもまだ母は目を覚ましていなかった。
自分が帰ってきた物音や気配で母が目覚めると思っていた私は、何となくそれが気に入らなくてむっとした思いで母を起こそうと近寄った。
その頃は反抗期らしいものも私は迎えていて、必要最小限の事しか話をしない癖に実に勝手なものだと今は思う。
頬をソファに当てて眠り続ける母の姿を見ていると、最後に母のありのままの肉体を見た何年も前のあの夏の日の事を思い起こしていた。
物音をたてないように母の正面に回り込むと、母が着ている薄く青みがかったシャツの胸が柔らかく隆起しているのがやけに目についた。
触れたい、という思いが湧き起るのを必死で堪えながら、目線はその下に下りていく。
膝まである長めのタイトスカートから伸びた白い脚…そしてその奥を見たくて覗き込もうと滑稽なほど私は身を屈めた。
スカートの生地の影に隠れて薄暗くなった母の両足の付け根…しかし、それが目に入った時私は生まれて今までで一番胸が高鳴る思いだった。
真っ白に見える母の下着…目を凝らしてもそれ以上何も見えなかったけれど、その奥にある母の最も神聖な場所の事を思うとそれだけでいつまで見つめていても飽きる事はなかった。
胸と違って触れたいという感情すら湧いてこない事がその場所がいかに特別であるかの印だった。
「お母さん…」
その頃には母親をそんな風に呼ばなくなっていたのに、数年ぶりに自然と口を突いて出たのは幼い頃と同じ呼び方だった。
手を伸ばして触れてみたくて堪らなくなっていたのに、私の若い体は確かに母を求めていたのに、決して触れてはいけない事も強く認識していた。
それをしたら何かが元に戻らない形に壊れて粉々になってしまう。
壊れてしまうのは母か私か、それとも二人ともなのか、何か目に見えないものなのか…分からないけれど、そんな忌まわしい予感がしてどうしても手が動かなかった。
ただただ私は目の前の母を見つめていた。
薄らと青白く見える母の太ももの静脈が分かるほど、ただ見つめていた…。
それから部屋に戻った私はさっきまで穴が開くほど見つめていた母のそれを思い起こしながら、夢中でオナニーをし始めていた。
今まで見たどんな本やビデオより、想像した女より、一番興奮が昂ぶっていた。
興奮と快楽だけでない、言葉に言い尽くせない切なくやるせない感情が膨らんでくる。
手を伸ばしてはいけない、触れてはいけない母…一番身近なはずなのに、一番特別なはずなのに…そう思うと自然と涙が溢れてきそうだった。
自分が捨てられることを知ってしまった子供が縋り付くようなそんな感情で、私は小さな声で母を何度も呼んだ。
数秒後。寒気にも似た感覚に腰が震えだし、脈動が破裂するようにし私の胎内の熱は精に溶け出しはじけ飛んでいった。
それからしばらくの間、私は痺れたような感覚が落ち着くまでずっと目を閉じて母の唇の感触を想起していた。
高校を卒業する直前の事だ。
既に就職の決まっていた私はその年の春から会社の寮に住むことが決まっていた。
生まれて初めて母と離れて暮らす様になる、その現実に母も私も何となく居心地が悪く、気まずく思えて顔を合わせてもどこかぎこちなかった。
母に異性を感じたのは確かでもだからといってすぐに私が母に素直に接することが出来ないままだったし、母もそんな私とどう接していいのか分からない様子だった。
卒業式を数日後に控えていた私は洗い物をしていた母の背中をぼんやり眺めていた。
昔と同じように背筋はピンとしていても私が子供の頃のようには若くはない。
ずっと大変な思いをしてきたのに、まだ巣立つ寸前の息子に困らされている…私が母よりも背丈が大きくなってもう何年にもなっていたのに、まだ私の方がずっと子供で幼稚で、惨めに、そして申し訳なく思えた。
「母さん」
そう母の背中に声をかけた。
「何?」
母は振り返らずに答えた。
自分の手を離れていく息子にあえて冷たく突き放す様に。
そんな母の態度も親として気遣いの表れである事に気づけるようにはなっていた。
私は立ち上がり、母を背中からそっと抱きしめた。
母はまるで分っていたかのように、私の腕の中で黙ったまま洗い物を続けていた。
掌に母の胸の膨らみが当たると僅かにめり込んでいくと、その柔らかさに母も決して聖なる存在というだけでなく、生身の女性である事を改めて実感する。
「母さん…」
もう一度私は母の耳元でささやいた。
どこか私の声に必死に助けを求める子供の雰囲気を感じ取ったのだろうか。
「どうしたの?」
母さん…何も言えずに私は母の背中を抱きしめ続けた。
頭一つは小さくなった私の母はそれでも毅然とした態度を崩さず、応える。
それでもその声はまるで私が小さい時のように優しく響いて聞こえた。
黙ったまま抱きしめ続ける私はまるで図体だけ大きくなった子供と一緒だった。
母は私の腕に手を掛けると愛おしそうに顔を埋めてそれから少しだけ振り向いた。
濡れたような柔らかな感触…それが私の唇に10数年ぶりに母の唇が押し当てられた事に気づくと、驚いた私は母を見つめた。
間近で見る母はもう昔のように若くは見えなかったけれど、それでも十分過ぎるほど美しい女(ひと)だった。
触れたと思ったらすぐに離れた母の唇は何かに迷う様に口ごもるような動きを見せた。
一瞬曇った母の眉間の皺に、私は自分がしようとしたことの重大さを知る。
「ごめん、もうしないから…」
消え入りそうな私の声に母は少しだけ悲しそうな顔をして小さく頷いた。
それからその夜の事は今も不思議な出来事のように断片的に覚えている。
私の腕の中から抜け出た母が私を叩いた事。
熱くなった右頬の感覚の惨めさに私が涙を堪えきれなくなった事。
すぐに母も両手で顔を抑えて泣き出してしまった事。
そんな母の体を強く抱きしめて夢中で想いを伝えた事。
私の言葉を打ち消す様に母が何度も私の胸を叩いた事。
毎日水を供えていた父の写真立てがトンとダッシュボードに音を立てて伏せられた事。
涙で赤く腫らした僕たちはひどい顔のまま、長い間唇を重ねた事。
まるで離れたら何かが二人を引き裂いてしまうかのように暗い居間で二人で抱きしめあった事。
母の柔らかな乳房を口に含み、懐かしい想いで強く吸うとまだ幼い頃の事を思い出した事。
強く吸うほどに私の頭を撫でる母の手に力が籠っていった事。
母の白く細い指が私のモノを掴んだ時に、その皮膚が少しガサついている事に気づいた事。
ゆっくりと伸ばした指先にようやく母の最も聖なる箇所に触れた事。
瞬間、握りしめていた母の手に力が籠り熱い息を漏らした事。
…。
母の両足が開かれふくらはぎが私の肩にかけられる。
顔を近づけるほどに濃くなる母の聖地は懐かしい香りと熱が立ち上っていた。
不思議な感覚を覚えながら場違いなほど優しい感情が胸にあふれ出てくる。
かつて10が月過ごしただけの元始の揺り籠…母が胎内に持っていたその暖かさと優しさ、
顔を近づけ鼻先が触れた時、虚空を見つめたままだった母はピクンと体を震わせた。
せめてこの母を思うこの優しさだけは真実だと伝えたい…そう祈る思いで私は夢中で母の膣内に舌を伸ばし熱い蜜を掬いだしては犬のように飲み干した。
ひたむきな息子の愛唇行為に母は泣き出しそうなほど声を高め、狂人のように髪を振り乱す。
母が狂ってしまうかもしれない、という恐怖心が湧き起る。
しかし、一瞬舌を止めた私を見て母は何故止めるのかという目をして様子を窺う様に髪の隙間から私を覗き見ていた。
その時のどこか妖怪じみた母の様子を見て、既に戻れない道を歩いている事を知った。
今更ここで止めたってもう私たち親子が全く何も無かったようには出来やしないのだ。
昨日までの平凡な人生と親子には戻れやしないのだ。
そんな自棄にも似た感覚が湧き起ると私は吹っ切れた様に母を押さえつけたまま上に圧し掛かっていった。
「母さん…いくよ」
「…いいの。早く来て…」
一瞬の逡巡もないほど母は答えた。
それでも私の幹が母の入口に触れてから入り込むまでの短いひと時はさすがに緊張した。
二人で断頭台に上りギロチンが落ちてくるのを待つ一瞬前のような…母の手が焦れたように私の幹を掴み自らの胎内の入口に押し当ててもそこから先はしようとしなかった。
女の中に押し入るのは男の仕事だ、と母の声が聞こえたように思えた。
俺は母に導かれるようにそのまま強く押し込むと一瞬強く母の膣口の抵抗を覚えた。
今思うとあの入口の抵抗は母の最期の親として息子を思う良心が残っていたからかもしれない。
しかし、歯を食いしばりながら強く押し込むほどにあっけないほどに母の膣道に入り込んでしまっていた。
ギロチンのロープが切られ刃が落ちてきたと思う間もなく、私と母の頭部がゴロリと床に飛んでいくような…魂までたちまち涅槃に至るまでの三途の川まで堕ちていったように思えた。
人が体験する行為の中でこれに勝る感情は死しかないのではないのかと思った。
それくらいに実の母親の暖かな胎内の心地よさ、満足感は例えられないほど素晴らしかった。
自然と涙が溢れそうなほど、私は母の子宮の心地よさに溺れていた。
「さっきはごめんなさいね…」
母の手が伸びて私の頬を優しく撫でる。
さっき叩いた事を言っていると一瞬分からなかったが、そんな事はもう本当にどうでも良かった。
母は母のままで、女で…そして私もまた息子のままで、男で…そんな不思議な情愛がある事を初めて知った。
「綺麗だよ、母さん…」
ずっと言えなかった思いが自然と口を突いて出る。
「ありがとう…貴方も素敵よ」
頬を赤らめた母がそっと私に言葉を返してくる。
その表情はどこか照れくさそうで悲壮だったさっきまでとは大違いだった。
「ずっと昔から綺麗で、自慢だったよ…母さん…」
私の言葉に母は涙を流しながら何度もありがとうと言い続けていた。
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母の事を幾つか書き残しておきたいと思う。
ずっと前から漠然と温めてきた考えだったが今に至るまで実行に移さなかったのは、私の中で母が今も生き続けていて、もうどこにもいなくなった現実に向き合いたくなかったからだろう。
息子の目から見た母の生を知る限り書き写してしまう事によって私の中で母が終わってしまう、消えてなくなってしまう、そんな気がして何年も逃げ続けてきた。
私の母親は美しい人だった。
美人、という言葉通りに受け取れる女だったかは分からないが、少なくとも誰の手も借りず女手一つで私を育て慈しみ愛してくれた母は人として美しかった、と私は今も思う。
掛け替えのない、たった一人の母親であり私の知る唯一の肉親…母は初めから私にとって特別な存在だった。
私が生まれた土地は北関東の寂れた元炭鉱町で、思春期を過ごす頃にはもちろん往年の面影なんてまったくなかった。
戦前なら出稼ぎ労働者で賑わっていたらしいが、今となってはあちこち産廃置き場となって県内のゴミを集めては焼いたり埋め立てて何とかやっている冴えない田舎町だった。
これといった産業も企業もなかったから、父は母と結婚してすぐ頃から1年の大半を街に働きに出ていたらしいが、私の記憶の中にはない。
気付いたら未亡人になっていた母は父方の祖父の代から残っていた土地を処分して何とか生計を立てていた。
昔はこの辺は我が家の土地だった、とそんな話を幼い頃に聞かされた事もあったが、今は全て他人のものになってしまっていた。
経済的にそれなりに安定していて不安はなかったが、元は大地主の家に来た嫁という立場のためか、ついに母は再婚することはなかった。
そんな田舎町にあっても母は乏しい働き口を求めていた。
記憶の中の母はいつも違う仕事をしていて新聞配達やスーパーの店員、駅舎の清掃員‥あれこれ働き口を変えながら田舎町で何とか私を育ててくれていた。
貯金を取り崩すだけの暮らしではいけないと思っていたのだろう。
線が細く美しかった母には似合わず、いつも汗と疲れにまみれた人生を送っていた。
父親がいないという事は私にとって少なくない引け目だったけれど、母は他に代わる事のない絶対的な誇りとして私の中にあった。
他の家の子供とはまったく様相の異なる家だったけれど、少なくとも私は母のおかげでコンプレックスの塊にはならずに済んだ。
母親を美人だと思える事は息子にとって大切なことだと思う。
それがあるだけで、他の何が欠けていたとしても幸せを感じる事が出来るのだから。
私が中学校に進学した年の夏休みの事だと思う。
マスコミでは冷夏だと騒いでいたけれど、その日はひどく暑かった。
テレビでは毎日高校野球の中継がやっていた。
昼下がりに母と二人で応援していた母の郷里の学校が破れるのを見ていた。
「あ~あ、負けちゃった…」
そう言いながら苦笑いして見せた母の様子から、まだ遠い昔に過ごした故郷への愛着が母の中で消えていない事を知った。
こちらに嫁に来てから故郷に一度も帰っていない事情は分からなかったけれど、何かが母にある事は子供心に分かっていた。
「暑いね、シャワーでもしよっか」
敗戦からの切り替えのためか、わざと明るく言う母の言葉に素直に従ったのはまだ私自身が幼かったからだろう。
広くない風呂場でかわるがわる温いシャワーを浴びせ合う。
まだ小さかった頃は毎日のように一緒に入っていたが、高学年になった頃からは別々で入るようになっていた。
「大きくなったね…」
合間に私の肩に手をかけた母が寂しそうに言ったのを今も覚えている。
いつも幼い頃から見上げていた母は気付いたらほとんど変わらないくらいの背丈になっているのにその時初めて気づいた。
僅かに目線を上げてみた母の顔が今までに無く、近く見えた。
それから上がる時、ふと私は初めて母の肉体に目が行った。
シャワーのぬるま湯が母の丸みを帯びた乳房の間を流れ落ちて窪んだ臍を伝い、黒い陰毛の中に流れ落ちていく様子を見ていると、思わず私は見慣れていたはずの母の体が今まで見た事のない蠱惑的な魅力に満ちているように思えて目を逸らした。
風呂から上がると買い物に出かける母を見送って再放送のアニメを見ながら、私はさっき見た母の肉体を何度も思い起こしていた。
数年たって私は高校生になっていた。
地元の冴えない工業高校に通っていた私は中学時代よりも女っ気のない毎日にうんざりしていた。
ある日、学校から帰ってくると珍しく母が居間のソファに凭れて眠っていた。
疲れているんだろうな…そう思いながら私が鞄を部屋に置いて着替えてきてもまだ母は目を覚ましていなかった。
自分が帰ってきた物音や気配で母が目覚めると思っていた私は、何となくそれが気に入らなくてむっとした思いで母を起こそうと近寄った。
その頃は反抗期らしいものも私は迎えていて、必要最小限の事しか話をしない癖に実に勝手なものだと今は思う。
頬をソファに当てて眠り続ける母の姿を見ていると、最後に母のありのままの肉体を見た何年も前のあの夏の日の事を思い起こしていた。
物音をたてないように母の正面に回り込むと、母が着ている薄く青みがかったシャツの胸が柔らかく隆起しているのがやけに目についた。
触れたい、という思いが湧き起るのを必死で堪えながら、目線はその下に下りていく。
膝まである長めのタイトスカートから伸びた白い脚…そしてその奥を見たくて覗き込もうと滑稽なほど私は身を屈めた。
スカートの生地の影に隠れて薄暗くなった母の両足の付け根…しかし、それが目に入った時私は生まれて今までで一番胸が高鳴る思いだった。
真っ白に見える母の下着…目を凝らしてもそれ以上何も見えなかったけれど、その奥にある母の最も神聖な場所の事を思うとそれだけでいつまで見つめていても飽きる事はなかった。
胸と違って触れたいという感情すら湧いてこない事がその場所がいかに特別であるかの印だった。
「お母さん…」
その頃には母親をそんな風に呼ばなくなっていたのに、数年ぶりに自然と口を突いて出たのは幼い頃と同じ呼び方だった。
手を伸ばして触れてみたくて堪らなくなっていたのに、私の若い体は確かに母を求めていたのに、決して触れてはいけない事も強く認識していた。
それをしたら何かが元に戻らない形に壊れて粉々になってしまう。
壊れてしまうのは母か私か、それとも二人ともなのか、何か目に見えないものなのか…分からないけれど、そんな忌まわしい予感がしてどうしても手が動かなかった。
ただただ私は目の前の母を見つめていた。
薄らと青白く見える母の太ももの静脈が分かるほど、ただ見つめていた…。
それから部屋に戻った私はさっきまで穴が開くほど見つめていた母のそれを思い起こしながら、夢中でオナニーをし始めていた。
今まで見たどんな本やビデオより、想像した女より、一番興奮が昂ぶっていた。
興奮と快楽だけでない、言葉に言い尽くせない切なくやるせない感情が膨らんでくる。
手を伸ばしてはいけない、触れてはいけない母…一番身近なはずなのに、一番特別なはずなのに…そう思うと自然と涙が溢れてきそうだった。
自分が捨てられることを知ってしまった子供が縋り付くようなそんな感情で、私は小さな声で母を何度も呼んだ。
数秒後。寒気にも似た感覚に腰が震えだし、脈動が破裂するようにし私の胎内の熱は精に溶け出しはじけ飛んでいった。
それからしばらくの間、私は痺れたような感覚が落ち着くまでずっと目を閉じて母の唇の感触を想起していた。
高校を卒業する直前の事だ。
既に就職の決まっていた私はその年の春から会社の寮に住むことが決まっていた。
生まれて初めて母と離れて暮らす様になる、その現実に母も私も何となく居心地が悪く、気まずく思えて顔を合わせてもどこかぎこちなかった。
母に異性を感じたのは確かでもだからといってすぐに私が母に素直に接することが出来ないままだったし、母もそんな私とどう接していいのか分からない様子だった。
卒業式を数日後に控えていた私は洗い物をしていた母の背中をぼんやり眺めていた。
昔と同じように背筋はピンとしていても私が子供の頃のようには若くはない。
ずっと大変な思いをしてきたのに、まだ巣立つ寸前の息子に困らされている…私が母よりも背丈が大きくなってもう何年にもなっていたのに、まだ私の方がずっと子供で幼稚で、惨めに、そして申し訳なく思えた。
「母さん」
そう母の背中に声をかけた。
「何?」
母は振り返らずに答えた。
自分の手を離れていく息子にあえて冷たく突き放す様に。
そんな母の態度も親として気遣いの表れである事に気づけるようにはなっていた。
私は立ち上がり、母を背中からそっと抱きしめた。
母はまるで分っていたかのように、私の腕の中で黙ったまま洗い物を続けていた。
掌に母の胸の膨らみが当たると僅かにめり込んでいくと、その柔らかさに母も決して聖なる存在というだけでなく、生身の女性である事を改めて実感する。
「母さん…」
もう一度私は母の耳元でささやいた。
どこか私の声に必死に助けを求める子供の雰囲気を感じ取ったのだろうか。
「どうしたの?」
母さん…何も言えずに私は母の背中を抱きしめ続けた。
頭一つは小さくなった私の母はそれでも毅然とした態度を崩さず、応える。
それでもその声はまるで私が小さい時のように優しく響いて聞こえた。
黙ったまま抱きしめ続ける私はまるで図体だけ大きくなった子供と一緒だった。
母は私の腕に手を掛けると愛おしそうに顔を埋めてそれから少しだけ振り向いた。
濡れたような柔らかな感触…それが私の唇に10数年ぶりに母の唇が押し当てられた事に気づくと、驚いた私は母を見つめた。
間近で見る母はもう昔のように若くは見えなかったけれど、それでも十分過ぎるほど美しい女(ひと)だった。
触れたと思ったらすぐに離れた母の唇は何かに迷う様に口ごもるような動きを見せた。
一瞬曇った母の眉間の皺に、私は自分がしようとしたことの重大さを知る。
「ごめん、もうしないから…」
消え入りそうな私の声に母は少しだけ悲しそうな顔をして小さく頷いた。
それからその夜の事は今も不思議な出来事のように断片的に覚えている。
私の腕の中から抜け出た母が私を叩いた事。
熱くなった右頬の感覚の惨めさに私が涙を堪えきれなくなった事。
すぐに母も両手で顔を抑えて泣き出してしまった事。
そんな母の体を強く抱きしめて夢中で想いを伝えた事。
私の言葉を打ち消す様に母が何度も私の胸を叩いた事。
毎日水を供えていた父の写真立てがトンとダッシュボードに音を立てて伏せられた事。
涙で赤く腫らした僕たちはひどい顔のまま、長い間唇を重ねた事。
まるで離れたら何かが二人を引き裂いてしまうかのように暗い居間で二人で抱きしめあった事。
母の柔らかな乳房を口に含み、懐かしい想いで強く吸うとまだ幼い頃の事を思い出した事。
強く吸うほどに私の頭を撫でる母の手に力が籠っていった事。
母の白く細い指が私のモノを掴んだ時に、その皮膚が少しガサついている事に気づいた事。
ゆっくりと伸ばした指先にようやく母の最も聖なる箇所に触れた事。
瞬間、握りしめていた母の手に力が籠り熱い息を漏らした事。
…。
母の両足が開かれふくらはぎが私の肩にかけられる。
顔を近づけるほどに濃くなる母の聖地は懐かしい香りと熱が立ち上っていた。
不思議な感覚を覚えながら場違いなほど優しい感情が胸にあふれ出てくる。
かつて10が月過ごしただけの元始の揺り籠…母が胎内に持っていたその暖かさと優しさ、
顔を近づけ鼻先が触れた時、虚空を見つめたままだった母はピクンと体を震わせた。
せめてこの母を思うこの優しさだけは真実だと伝えたい…そう祈る思いで私は夢中で母の膣内に舌を伸ばし熱い蜜を掬いだしては犬のように飲み干した。
ひたむきな息子の愛唇行為に母は泣き出しそうなほど声を高め、狂人のように髪を振り乱す。
母が狂ってしまうかもしれない、という恐怖心が湧き起る。
しかし、一瞬舌を止めた私を見て母は何故止めるのかという目をして様子を窺う様に髪の隙間から私を覗き見ていた。
その時のどこか妖怪じみた母の様子を見て、既に戻れない道を歩いている事を知った。
今更ここで止めたってもう私たち親子が全く何も無かったようには出来やしないのだ。
昨日までの平凡な人生と親子には戻れやしないのだ。
そんな自棄にも似た感覚が湧き起ると私は吹っ切れた様に母を押さえつけたまま上に圧し掛かっていった。
「母さん…いくよ」
「…いいの。早く来て…」
一瞬の逡巡もないほど母は答えた。
それでも私の幹が母の入口に触れてから入り込むまでの短いひと時はさすがに緊張した。
二人で断頭台に上りギロチンが落ちてくるのを待つ一瞬前のような…母の手が焦れたように私の幹を掴み自らの胎内の入口に押し当ててもそこから先はしようとしなかった。
女の中に押し入るのは男の仕事だ、と母の声が聞こえたように思えた。
俺は母に導かれるようにそのまま強く押し込むと一瞬強く母の膣口の抵抗を覚えた。
今思うとあの入口の抵抗は母の最期の親として息子を思う良心が残っていたからかもしれない。
しかし、歯を食いしばりながら強く押し込むほどにあっけないほどに母の膣道に入り込んでしまっていた。
ギロチンのロープが切られ刃が落ちてきたと思う間もなく、私と母の頭部がゴロリと床に飛んでいくような…魂までたちまち涅槃に至るまでの三途の川まで堕ちていったように思えた。
人が体験する行為の中でこれに勝る感情は死しかないのではないのかと思った。
それくらいに実の母親の暖かな胎内の心地よさ、満足感は例えられないほど素晴らしかった。
自然と涙が溢れそうなほど、私は母の子宮の心地よさに溺れていた。
「さっきはごめんなさいね…」
母の手が伸びて私の頬を優しく撫でる。
さっき叩いた事を言っていると一瞬分からなかったが、そんな事はもう本当にどうでも良かった。
母は母のままで、女で…そして私もまた息子のままで、男で…そんな不思議な情愛がある事を初めて知った。
「綺麗だよ、母さん…」
ずっと言えなかった思いが自然と口を突いて出る。
「ありがとう…貴方も素敵よ」
頬を赤らめた母がそっと私に言葉を返してくる。
その表情はどこか照れくさそうで悲壮だったさっきまでとは大違いだった。
「ずっと昔から綺麗で、自慢だったよ…母さん…」
私の言葉に母は涙を流しながら何度もありがとうと言い続けていた。
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