短編「夏の夜空に」
- 2016/08/20
- 22:36
予告通り、8月で2作品目のアップです。
昔の体験告白の掲示板みたいに書いてみたかったんだと思います。
ちょっと凡作の感じもしますが、お蔵入りさせるよりは出してしまおうと思い、載せます。
宜しければどうぞ。
昔の体験告白の掲示板みたいに書いてみたかったんだと思います。
ちょっと凡作の感じもしますが、お蔵入りさせるよりは出してしまおうと思い、載せます。
宜しければどうぞ。
短編「夏の夜空に」
あれはまだ僕がまだ高校生だった頃の事です。
たった一度きり、今となっては本当にあった事かどうかも思い出せない程に時間が経ってしまいました。
ちょうどこんな初夏の季節の事です。
日が長くなったこともあって、部活動が終わる時間が遅くなり始めた時期でした。
サッカー部の万年補欠だった僕にとっては部活の時間が長くなるという事はただ毎日薄暗くなるまでグランドを走らされるばかりでちっとも楽しい事でもありませんでした。
あの頃、部活でヒーローになれるのは一握りの野球部やバスケ部で、弱小だったうちの学校のサッカー部は元々決して花形でもなかったのですが。
いずれにしても疲れ切った体で家に帰ると、母が作ってくれた夕食をかきこんでは2,3時間一眠りをするのが日常でした。
あの当時は父も仕事で帰りが遅くなる日が増えていた時期で、あまり仕事熱心とは言えないように見えた父にとっては数少ない繁忙期だったと思います。
その日もさっさと夕飯を食べると風呂にも入らずにベッドに倒れ込みました。
ベッドに横たわると眠いと思う間もなくあっという間に意識が落ちて行き、ふと気づくと2時間ほどが経過している、という感じでした。
それくらい疲れ切っていたんだと思います。
強豪校に比べればウチは練習量は少なかったはずですから、どうせレギュラーになれないならこっちで良かったとも思っていました。
時計を見ると八時を回っていたので風呂に入ろうとヨロヨロと立ち上がって階段を下りて行くと、母も一人台所でテレビを見ながらビールを飲んでいました。
酒好きの母なので父と二人で飲むときもよくありましたが、父が仕事で遅くなった日は夕飯が終わった後でゆっくり一人でグビグビと飲んでいるのが好きなようでした。
赤らんだ頬で僕に気づくと、「起きたの?」と声をかけてきたため、曖昧に頷いて風呂場に向かおうとしました。
思えばこの頃は父も僕も帰りが遅く、主婦だった母にとってはなかなか寂しい時期だったのかもしれません。
「ちょっとコレ食べない?」そう言ってみてみると、近所のスーパーで売ってそうな出来合いの助六でした。
あまり腹も減っていなかったけれど、まぁいいかと思い、テーブルを挟んで少し寿司をつまんでいくことにしました。
その夜は特に特に母は呂律が怪しくなるくらいに酒が進んでいるようで、座って見ると母は珍しく自分からアレコレ近所の事や買い物の話等を陽気に話し続けていた。
そういう時の母は酒の匂いがきつく、煙草も吸うので余計に気になるのですがそれを口に挟めるような物言いではありません。
やけに機嫌が良いようで何度も僕の肩に手を伸ばして堅さを確かめてはグフグフとやけに満足げに笑っていました。
その時感じた母の掌の柔らかさや酒と化粧が混じった香りが初めて僕にとって母親から異性を感じさせました。
本当に偶然の産物だったと思います。
もちろん母は僕を誘惑したりからかったりするような気はなかったと思うし、僕も全くそれまで母親にそんな感情を持ったこともありませんでした。
日々部活でエネルギーこそは無為に発散させてはいましたが、一眠りして回復してしまっていたからでしょうか。
瞬間的に母をじっと見つめると真っ赤と言っていいほど頬を赤く染めた母がやけに饒舌に何かを話し続けていました。
そんな普段と違う母の様子にも僕は変化を感じていたのかもしれません。
暑そうにパタパタと手で仰ぐようにして母は額の汗を乾かそうとしていました。
その揺れる掌に合わせて、わずかに揺れる母の胸の肉が目には行った時、痛いほど心臓が脈打つのを感じました。
過呼吸みたいに胸が苦しくなるほど母を意識してしまっていました。
その日は初夏にしては夏の盛りのように暑い日でした。
僕の脇の食器棚のすぐ前には出したばかりの古い緑色の扇風機が置かれていました。
暑そうにしていた母は軽く椅子から腰を上げると、僕の横で屈みこむと扇風機の電源を入れました。
小さな音を立てて扇風機の小さな羽が回り始め、母の髪をパサパサと揺らします。
そのままの格好で母は涼し気に風を顔で受け続けていました。
そんな母の横顔を見ながら僕はぼんやりとすぐ脇に座り続けていました。
体温も伝わってきそうなほど近くにいると余計に母の肉体の熱を感じました。
「涼しい?」何となく気まずくなって僕は中身のない質問をしてしまいました。
「うん」そう言って母は子供のように扇風機に向けてあ~と声を出すとテープレコーダーから再生されているような機械的な声になります。
すぐ目の前にいる母の躰に触れたい、という思いがありましたが、さすがにそこまでする勇気はありませんでした。
丸みを帯びた母の肩には汗をかいてピッチリとパジャマが貼りついています。
薄らと白いブラの肩ひもが透けているのが見えました。
酔っているから分からないかもしれない、と思い、身を乗り出して母の肩に手を伸ばしてみました。
しかし、その直前に急に振り返られそうでどうしてもそれ以上は進めません。
小さく呼吸を整えるように母は目を閉じています。
そっと乗せるように母の肩に手をかけてみました。
しかし指には母の汗の濡れた肌の感触がパジャマ越しに伝わってくると、予想していた感触と違って僕は慌てて手を引っ込めてしまいました。
母は何も言いませんでした。
それからしばし時間が経ってから母は小さく笑うと、「何してるのよ」と笑いました。
そう問われては「いや、何も」そう答えるしかありません。
僕のその答えに母は何も言いませんでした。
酔っていても母は母、僕の普段と違う様子が見抜かれているような気がして内心ではギクッとしていました。
「ヘタレね、アンタ」そう言って母は小さく笑いました。
馬鹿にするような感じでなく、軽くからかわれるような調子でしたが、母親に魂胆を見抜かれていた事がひどく恥ずかしく思って俯いていました。
それから会話も止まったため、もう風呂に行こうと思って少し顔を上げると母が僕を見ていることに気づきました。
「触ってみる?」
母の声はまるで普段のように聞こえました。
まるで買ってきたお菓子を一口食べるかと聞かれた時のように何気ない響きがありました。
えっと思って母を見ると、僕の返事を待っているかのように母はじっと僕を見ていました。
しかし子ども扱いしているようにも思え、だいぶ母は酔っぱらっているな、と思ったのですが、小学生の頃と同じようにはいかないとも思っていました。
シャレで済ませられるかな、とか、何考えてんだとか、あれこれ思いが頭の中でグルグルとまわりましたが、こちらの出方を窺うように黙って僕を見上げる母の姿に千載一遇の機会のようにも思えました。
遠慮がちに母の肩に手を置いてみました。
あまりに他人行儀な僕の様子が母には可笑しかったのか、母は小さくフフッと笑いました。
何か言われるかと思い心の中で身構えたのですが、何も言いそうもない様子なので思い切って服の上から母の膨らんだ胸に触れてみました。
濡れたパジャマ越しでしたが、フニャッとした張りのない柔らかな感触が確かにしました。
ニヤニヤとした感じで僕を見てくる母はそれでも何も言う様子が無いため、逆に僕は自分が何をしているのか改めて認識してしまい、我に返ってしまっていました。
まずいとかやばいとも思いながらもいまさら母の胸に触れている手を急に引っ込める訳にもいかず、困ってしまっていると母が小さく息を吐き出しました。
暑かったので母のそれは本当に何気ない呼吸だったのかもしれませんが、その時の僕にはまるで母が女になって悩ましい吐息を漏らしたように思えたのです。
ぐっと決心して顔を近づけると、母は急にさっきまでとは打って変わってやけにシャキッとしているように見えました。
正気に返って叱られる、と思ったのもつかの間、母は僕の瞳を見つめると妖しく小さく笑みを浮かべました。
それまでずっと何とか我慢してきたものが壊れてしまいそうになるのを感じていました。
今思えばその時の母は酔いもあっていわゆるスキを見せている状態だったのかもしれません。
本来その時居合わせるであろう男がたまたま息子である僕だっただけで、それも偶然だったかもしれません。
当時、僕はそれまでに彼女が出来た事も無い高校生でした。
頭の中ではもしかしたらヤレるかもしれない、という考えが頭をもたげ始めています。
そこまで酔ってしまっている母を見るのは初めての事でした。
自分がよく知っている母の性格や様子を思っても、その夜にだけは酒が感覚を狂わせてしまっていたと解釈するしかないと思います。
もっともそこまでしたとしても母親にとっては息子相手のほんのお遊びの一環だったかもしれません。
しかし童貞で思春期真っ盛りだった僕にとっては本当に大きなきっかけにしか感じられませんでした。
汗びっしょりにかいた母のパジャマ姿を見てももう僕にはその中身の事ばかりが気になる様になってしまい、すぐにでもヤリたい気持ちを抑えるのに必死でした。
しかし、そんな僕の勝手な期待と別に目の前にいる母はどんなにスキがあっても普段と違っても、誰よりもよく目にした母親でした。
酒を好み煙草を吸う母はおっかさん然としていて、普段だったら女っ気すら感じない程です。
その数日前の事ですが、その時脳裏では学校帰りに立ち寄った本屋で立ち読みした写真週刊誌の記事の事を描いていました。
離婚歴のある有名な女優が若い俳優と朝帰りをした、とかよくあるゴシップです。
普段なら気にもとめないような話だったのに、その時に限って僕の記憶に残ったのはその女優がもう若くなくて息子も成人しているようないい年したベテランだったことによります。
母親と同年代の女優がそんなに年下の男なんて…と気持ち悪いと素直に思った事を今でも覚えています。
それから何日も経たない内に僕は母親のような年の女性どころか、母親その人に欲情してしまっていました。
母は何も言いませんでした。
しかし、悩まし気な息を漏らしながら僕の事をちらと見上げてくる母の様子は普段とはあまりに違って見えました。
顔や形、声も良く知っている母なのに、雰囲気が全く違っていました。
汗が髪にへばりついてちょっと鬼気迫るくらいに見えるその表情でしたが、その顔が不意に近づいてくると、赤い母の口唇が大きくなってくるような錯覚を受けました。
自分が母親とキスをしている…そう分かっても信じられないような思いでした。
柔らかく濡れた感触がピッチリと僕の唇を塞ぐように押し付けられています。
それから母の唇が何かを啄ばむように何度も僕の唇を這いました。
よく知った母の化粧水の匂いと酒よりも煙草のニコチンの濃厚な匂いが感じられました。
思わず眉間に皺を寄せてしまいそうなほど深くねっとりとした香りがした後、母の熱い舌が口中に入ってきました。
煙草を吸っていたからかその表面にはネチャっとした不快な匂いの粘着物もありましたが、不思議と離す気にはなれませんでした。
母は現実を忘れるように強く瞳を閉じていました。
強引に引き離して声を掛ければこの時が終わってしまうのが分かっていたからでしょう。
閉じられた母の瞳が開かれるのが怖くて僕は目を逸らすように母の肩を抱き寄せました。
もし開かれた目がいつもの母だったと思うと、恐ろしくて仕方がなかったのです。
多分その時にはもう母の酔いは醒め始めているはずでした。
テーブルの上のコップは僕が通りがかった時から空のままでした。
僕の腕の中の母はやはりよく見知っている母の躰でした。
小さなころから見飽きるほど見てきたはずの母と今こうしている、数m離れた距離で見てきた肉親が腕の中にいるとまるで違っているようには思えないのが不思議でした。
確かにこの人と自分は血がつながっている、そんな事実が確信のように腕から伝わってくるようでした。
勢いでやってしまうわけには決して行かないとも思いながらセックス自体がどうしてもしてみたいという思春期特有の願望も当然持っていました。
親子なのに、という逡巡と親子だから、という葛藤が何度も繰り返されました。
しかし、これを逃したら二度とこんな機会はない、という確信めいた予感から最後には目先の本能が勝ってきました。
母親相手に出来るのか、という懸念も実際に唇を重ねながら母の体を弄っていると、もうそんな不安など無かったかのように欲情していました。
夢中で母のパジャマのズボンから手を入れ、下着越しに母のそこを触れると想像していないほどに熱くて、やけに触れても押し返してくるような感触のない柔らかさでした。
ぐっと押してもムニュッという風に自然に押し込めてしまいましたが、そのまま何度も指で押し込みながら撫でていると、さっきまで微睡んだような様子だった母の表情が少し変わって熱っぽく息が乱れてきます。
もうそこまできては親子でもどうでもよくなって止まることが出来ませんでした。
下半身だけ母の衣服を下してしまうと、母は僕に促されるよりも早く両足を開いて迎え入れるように僕の腰を抱き寄せてきました。
押し付けたような感覚だったのですが、当たっているという感覚がしたと思ったらそのまま母の中に緩く入り込んでいました。
さっき触れた時からほとんど締まりがないと思っていた通り抵抗がまったくといっていいほどなかったので、最初は入っている自覚がわからないくらいでした。
しかし、入れられた側はたしかに感じるのか、母は苦し気に呼吸が乱れながらも小さく高く喘ぐように声を漏らしています。
たしかに母とヤッていると分かると、そんな母の小さな反応にもひどく興奮して夢中でゴンゴンと腰をぶつけていきました。
少しするとぐっと腰の奥が痛いような感覚に襲われたので、焦りながら引き抜くと母のヘアに射精してしまっていました。
それから母はしばらく呆然としたように天井を見上げて息を整えていましたが、やがて立ち上がって部屋を出ていき、風呂場に向かいました。
やけにしっかりした足取りでしたが、呼び止めることもできず、見送るだけでした。
その翌日からどうやって母と向かい合えば良いのか、すごくその夜は不安でしたが僕らは何事も無かったかのように過ごしました。
もちろんあの夜のことが話題になることもなく、口にしないようにしようという無言の約束のようなものが母との間にありました。
およそ数分間、人生の中で言えばほんとうに一瞬の花火のような出来事だったのですが、たしかに母と僕は一度だけセックスをした事には変わりありません。
そんな思い出が今も僕だけでなく母の心の中にも残り続けている、何となくそんな気がするだけなのです。
父の三回忌を迎える今夏、もしも機会があれば久しぶりにあの夜の話をしてみようかとも思います。
(完)
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あれはまだ僕がまだ高校生だった頃の事です。
たった一度きり、今となっては本当にあった事かどうかも思い出せない程に時間が経ってしまいました。
ちょうどこんな初夏の季節の事です。
日が長くなったこともあって、部活動が終わる時間が遅くなり始めた時期でした。
サッカー部の万年補欠だった僕にとっては部活の時間が長くなるという事はただ毎日薄暗くなるまでグランドを走らされるばかりでちっとも楽しい事でもありませんでした。
あの頃、部活でヒーローになれるのは一握りの野球部やバスケ部で、弱小だったうちの学校のサッカー部は元々決して花形でもなかったのですが。
いずれにしても疲れ切った体で家に帰ると、母が作ってくれた夕食をかきこんでは2,3時間一眠りをするのが日常でした。
あの当時は父も仕事で帰りが遅くなる日が増えていた時期で、あまり仕事熱心とは言えないように見えた父にとっては数少ない繁忙期だったと思います。
その日もさっさと夕飯を食べると風呂にも入らずにベッドに倒れ込みました。
ベッドに横たわると眠いと思う間もなくあっという間に意識が落ちて行き、ふと気づくと2時間ほどが経過している、という感じでした。
それくらい疲れ切っていたんだと思います。
強豪校に比べればウチは練習量は少なかったはずですから、どうせレギュラーになれないならこっちで良かったとも思っていました。
時計を見ると八時を回っていたので風呂に入ろうとヨロヨロと立ち上がって階段を下りて行くと、母も一人台所でテレビを見ながらビールを飲んでいました。
酒好きの母なので父と二人で飲むときもよくありましたが、父が仕事で遅くなった日は夕飯が終わった後でゆっくり一人でグビグビと飲んでいるのが好きなようでした。
赤らんだ頬で僕に気づくと、「起きたの?」と声をかけてきたため、曖昧に頷いて風呂場に向かおうとしました。
思えばこの頃は父も僕も帰りが遅く、主婦だった母にとってはなかなか寂しい時期だったのかもしれません。
「ちょっとコレ食べない?」そう言ってみてみると、近所のスーパーで売ってそうな出来合いの助六でした。
あまり腹も減っていなかったけれど、まぁいいかと思い、テーブルを挟んで少し寿司をつまんでいくことにしました。
その夜は特に特に母は呂律が怪しくなるくらいに酒が進んでいるようで、座って見ると母は珍しく自分からアレコレ近所の事や買い物の話等を陽気に話し続けていた。
そういう時の母は酒の匂いがきつく、煙草も吸うので余計に気になるのですがそれを口に挟めるような物言いではありません。
やけに機嫌が良いようで何度も僕の肩に手を伸ばして堅さを確かめてはグフグフとやけに満足げに笑っていました。
その時感じた母の掌の柔らかさや酒と化粧が混じった香りが初めて僕にとって母親から異性を感じさせました。
本当に偶然の産物だったと思います。
もちろん母は僕を誘惑したりからかったりするような気はなかったと思うし、僕も全くそれまで母親にそんな感情を持ったこともありませんでした。
日々部活でエネルギーこそは無為に発散させてはいましたが、一眠りして回復してしまっていたからでしょうか。
瞬間的に母をじっと見つめると真っ赤と言っていいほど頬を赤く染めた母がやけに饒舌に何かを話し続けていました。
そんな普段と違う母の様子にも僕は変化を感じていたのかもしれません。
暑そうにパタパタと手で仰ぐようにして母は額の汗を乾かそうとしていました。
その揺れる掌に合わせて、わずかに揺れる母の胸の肉が目には行った時、痛いほど心臓が脈打つのを感じました。
過呼吸みたいに胸が苦しくなるほど母を意識してしまっていました。
その日は初夏にしては夏の盛りのように暑い日でした。
僕の脇の食器棚のすぐ前には出したばかりの古い緑色の扇風機が置かれていました。
暑そうにしていた母は軽く椅子から腰を上げると、僕の横で屈みこむと扇風機の電源を入れました。
小さな音を立てて扇風機の小さな羽が回り始め、母の髪をパサパサと揺らします。
そのままの格好で母は涼し気に風を顔で受け続けていました。
そんな母の横顔を見ながら僕はぼんやりとすぐ脇に座り続けていました。
体温も伝わってきそうなほど近くにいると余計に母の肉体の熱を感じました。
「涼しい?」何となく気まずくなって僕は中身のない質問をしてしまいました。
「うん」そう言って母は子供のように扇風機に向けてあ~と声を出すとテープレコーダーから再生されているような機械的な声になります。
すぐ目の前にいる母の躰に触れたい、という思いがありましたが、さすがにそこまでする勇気はありませんでした。
丸みを帯びた母の肩には汗をかいてピッチリとパジャマが貼りついています。
薄らと白いブラの肩ひもが透けているのが見えました。
酔っているから分からないかもしれない、と思い、身を乗り出して母の肩に手を伸ばしてみました。
しかし、その直前に急に振り返られそうでどうしてもそれ以上は進めません。
小さく呼吸を整えるように母は目を閉じています。
そっと乗せるように母の肩に手をかけてみました。
しかし指には母の汗の濡れた肌の感触がパジャマ越しに伝わってくると、予想していた感触と違って僕は慌てて手を引っ込めてしまいました。
母は何も言いませんでした。
それからしばし時間が経ってから母は小さく笑うと、「何してるのよ」と笑いました。
そう問われては「いや、何も」そう答えるしかありません。
僕のその答えに母は何も言いませんでした。
酔っていても母は母、僕の普段と違う様子が見抜かれているような気がして内心ではギクッとしていました。
「ヘタレね、アンタ」そう言って母は小さく笑いました。
馬鹿にするような感じでなく、軽くからかわれるような調子でしたが、母親に魂胆を見抜かれていた事がひどく恥ずかしく思って俯いていました。
それから会話も止まったため、もう風呂に行こうと思って少し顔を上げると母が僕を見ていることに気づきました。
「触ってみる?」
母の声はまるで普段のように聞こえました。
まるで買ってきたお菓子を一口食べるかと聞かれた時のように何気ない響きがありました。
えっと思って母を見ると、僕の返事を待っているかのように母はじっと僕を見ていました。
しかし子ども扱いしているようにも思え、だいぶ母は酔っぱらっているな、と思ったのですが、小学生の頃と同じようにはいかないとも思っていました。
シャレで済ませられるかな、とか、何考えてんだとか、あれこれ思いが頭の中でグルグルとまわりましたが、こちらの出方を窺うように黙って僕を見上げる母の姿に千載一遇の機会のようにも思えました。
遠慮がちに母の肩に手を置いてみました。
あまりに他人行儀な僕の様子が母には可笑しかったのか、母は小さくフフッと笑いました。
何か言われるかと思い心の中で身構えたのですが、何も言いそうもない様子なので思い切って服の上から母の膨らんだ胸に触れてみました。
濡れたパジャマ越しでしたが、フニャッとした張りのない柔らかな感触が確かにしました。
ニヤニヤとした感じで僕を見てくる母はそれでも何も言う様子が無いため、逆に僕は自分が何をしているのか改めて認識してしまい、我に返ってしまっていました。
まずいとかやばいとも思いながらもいまさら母の胸に触れている手を急に引っ込める訳にもいかず、困ってしまっていると母が小さく息を吐き出しました。
暑かったので母のそれは本当に何気ない呼吸だったのかもしれませんが、その時の僕にはまるで母が女になって悩ましい吐息を漏らしたように思えたのです。
ぐっと決心して顔を近づけると、母は急にさっきまでとは打って変わってやけにシャキッとしているように見えました。
正気に返って叱られる、と思ったのもつかの間、母は僕の瞳を見つめると妖しく小さく笑みを浮かべました。
それまでずっと何とか我慢してきたものが壊れてしまいそうになるのを感じていました。
今思えばその時の母は酔いもあっていわゆるスキを見せている状態だったのかもしれません。
本来その時居合わせるであろう男がたまたま息子である僕だっただけで、それも偶然だったかもしれません。
当時、僕はそれまでに彼女が出来た事も無い高校生でした。
頭の中ではもしかしたらヤレるかもしれない、という考えが頭をもたげ始めています。
そこまで酔ってしまっている母を見るのは初めての事でした。
自分がよく知っている母の性格や様子を思っても、その夜にだけは酒が感覚を狂わせてしまっていたと解釈するしかないと思います。
もっともそこまでしたとしても母親にとっては息子相手のほんのお遊びの一環だったかもしれません。
しかし童貞で思春期真っ盛りだった僕にとっては本当に大きなきっかけにしか感じられませんでした。
汗びっしょりにかいた母のパジャマ姿を見てももう僕にはその中身の事ばかりが気になる様になってしまい、すぐにでもヤリたい気持ちを抑えるのに必死でした。
しかし、そんな僕の勝手な期待と別に目の前にいる母はどんなにスキがあっても普段と違っても、誰よりもよく目にした母親でした。
酒を好み煙草を吸う母はおっかさん然としていて、普段だったら女っ気すら感じない程です。
その数日前の事ですが、その時脳裏では学校帰りに立ち寄った本屋で立ち読みした写真週刊誌の記事の事を描いていました。
離婚歴のある有名な女優が若い俳優と朝帰りをした、とかよくあるゴシップです。
普段なら気にもとめないような話だったのに、その時に限って僕の記憶に残ったのはその女優がもう若くなくて息子も成人しているようないい年したベテランだったことによります。
母親と同年代の女優がそんなに年下の男なんて…と気持ち悪いと素直に思った事を今でも覚えています。
それから何日も経たない内に僕は母親のような年の女性どころか、母親その人に欲情してしまっていました。
母は何も言いませんでした。
しかし、悩まし気な息を漏らしながら僕の事をちらと見上げてくる母の様子は普段とはあまりに違って見えました。
顔や形、声も良く知っている母なのに、雰囲気が全く違っていました。
汗が髪にへばりついてちょっと鬼気迫るくらいに見えるその表情でしたが、その顔が不意に近づいてくると、赤い母の口唇が大きくなってくるような錯覚を受けました。
自分が母親とキスをしている…そう分かっても信じられないような思いでした。
柔らかく濡れた感触がピッチリと僕の唇を塞ぐように押し付けられています。
それから母の唇が何かを啄ばむように何度も僕の唇を這いました。
よく知った母の化粧水の匂いと酒よりも煙草のニコチンの濃厚な匂いが感じられました。
思わず眉間に皺を寄せてしまいそうなほど深くねっとりとした香りがした後、母の熱い舌が口中に入ってきました。
煙草を吸っていたからかその表面にはネチャっとした不快な匂いの粘着物もありましたが、不思議と離す気にはなれませんでした。
母は現実を忘れるように強く瞳を閉じていました。
強引に引き離して声を掛ければこの時が終わってしまうのが分かっていたからでしょう。
閉じられた母の瞳が開かれるのが怖くて僕は目を逸らすように母の肩を抱き寄せました。
もし開かれた目がいつもの母だったと思うと、恐ろしくて仕方がなかったのです。
多分その時にはもう母の酔いは醒め始めているはずでした。
テーブルの上のコップは僕が通りがかった時から空のままでした。
僕の腕の中の母はやはりよく見知っている母の躰でした。
小さなころから見飽きるほど見てきたはずの母と今こうしている、数m離れた距離で見てきた肉親が腕の中にいるとまるで違っているようには思えないのが不思議でした。
確かにこの人と自分は血がつながっている、そんな事実が確信のように腕から伝わってくるようでした。
勢いでやってしまうわけには決して行かないとも思いながらセックス自体がどうしてもしてみたいという思春期特有の願望も当然持っていました。
親子なのに、という逡巡と親子だから、という葛藤が何度も繰り返されました。
しかし、これを逃したら二度とこんな機会はない、という確信めいた予感から最後には目先の本能が勝ってきました。
母親相手に出来るのか、という懸念も実際に唇を重ねながら母の体を弄っていると、もうそんな不安など無かったかのように欲情していました。
夢中で母のパジャマのズボンから手を入れ、下着越しに母のそこを触れると想像していないほどに熱くて、やけに触れても押し返してくるような感触のない柔らかさでした。
ぐっと押してもムニュッという風に自然に押し込めてしまいましたが、そのまま何度も指で押し込みながら撫でていると、さっきまで微睡んだような様子だった母の表情が少し変わって熱っぽく息が乱れてきます。
もうそこまできては親子でもどうでもよくなって止まることが出来ませんでした。
下半身だけ母の衣服を下してしまうと、母は僕に促されるよりも早く両足を開いて迎え入れるように僕の腰を抱き寄せてきました。
押し付けたような感覚だったのですが、当たっているという感覚がしたと思ったらそのまま母の中に緩く入り込んでいました。
さっき触れた時からほとんど締まりがないと思っていた通り抵抗がまったくといっていいほどなかったので、最初は入っている自覚がわからないくらいでした。
しかし、入れられた側はたしかに感じるのか、母は苦し気に呼吸が乱れながらも小さく高く喘ぐように声を漏らしています。
たしかに母とヤッていると分かると、そんな母の小さな反応にもひどく興奮して夢中でゴンゴンと腰をぶつけていきました。
少しするとぐっと腰の奥が痛いような感覚に襲われたので、焦りながら引き抜くと母のヘアに射精してしまっていました。
それから母はしばらく呆然としたように天井を見上げて息を整えていましたが、やがて立ち上がって部屋を出ていき、風呂場に向かいました。
やけにしっかりした足取りでしたが、呼び止めることもできず、見送るだけでした。
その翌日からどうやって母と向かい合えば良いのか、すごくその夜は不安でしたが僕らは何事も無かったかのように過ごしました。
もちろんあの夜のことが話題になることもなく、口にしないようにしようという無言の約束のようなものが母との間にありました。
およそ数分間、人生の中で言えばほんとうに一瞬の花火のような出来事だったのですが、たしかに母と僕は一度だけセックスをした事には変わりありません。
そんな思い出が今も僕だけでなく母の心の中にも残り続けている、何となくそんな気がするだけなのです。
父の三回忌を迎える今夏、もしも機会があれば久しぶりにあの夜の話をしてみようかとも思います。
(完)
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