短編「コタツ」

「コタツ」

年末に帰省すると、そのまま一週間ほど実家に滞在してまたアパートに戻る。
それがここ何年かの年越しの過ごし方だった。
その年は雪が少ないとかで、例年よりは道路も混んでなかった。
時折高速のガードレールの上側から懐かしい地元のビルや街並みが覗いている。
実家に近いインターで降りた後、もう一度実家に電話を入れてから年末年越し用に道沿いのコンビニでちょっとしたつまみや雑誌を手に入れた。

玄関のチャイムを押すこともなく、ガラガラと音を立てて引き戸を開くと、一年ぶりに母親の顔が見えた。
子供の頃より少ししぼんだように見えるのは年のせいというよりも父の病気のためでもあるのだろう。
秋から父が何度か検査入院し、手術していて何度か実家と病院を行き来している内にちょっと痩せたと電話では聞いていたが、実際に見てみると気苦労からか想像の中よりずっと痩せていた。
悲しいかな痩せると余計に皺が目立ってたが、何も言わないことにした。
そのまま母を助手席に乗せて病院に行き、病室で１時間ほど父と話した。
珍しく、気弱になっているようで涙ぐみそうな父の姿を見ていると痩せた母と相まって両親ももう若くないんだなと感じる。
帰り道は自然と口数が減り、近所のスーパーで夕飯を買い込んでから帰宅した。

あれこれ大変であろう母のため、その日は惣菜を中心に夕食にした。
珍しく母も酒を飲み、父が入院してから初めてだと言って笑う。
そこでようやく少しだけ空気が和むようだった。
アルコールが体内に残り、時間をかけてゆっくりと体内で分解されてくのを炬燵に入ってテレビの画面を眺めながら過ごしていた。
テーブルの上にはさっきまで食べていた惣菜のプラスチックの皿だけが片付けられ、酒がちょっと残ったコップとつまみのサキイカが袋を開けて広げられている。
隣に座った母も同じようでまだまったりと酒の余韻に浸っているようだった。
風呂に入るかどうか考えていたが、まあ、今日はいいかと横着な考えに支配されてくる。

ふと気づくと、少し眠っていたようだった。
すぐ脇では壁にもたれかかった母は眠たげな顔をして俯いている。
半ば起きているのか、と思い視線を向けると小さく目線で応えてきた。
その時の母はさっきまで見せていた普通の母親の顔とどこか違っていて、何だかやけに色気のようなものを感じさせた。
小さく俯いた母はあまりに無防備で、変な雰囲気を漂わせていた。
少し躊躇した後、そっと母の腰に腕を回すと、少し身を固くした母は俺を見上げると小さく微笑んだ。
そのとき子供のころから散々嗅ぎ慣れていた母の化粧水の香りがぷんと匂ってきて我に返りそうになる。
あまりによく知る容姿と香り、そして初めて見る母親の色気に俺は一気にグラグラと揺れ動いてしまった。
腕の中で俺は母の髪に何度も唇を押し付けて俺の気持ちを告げる。
小さくなった母は俺の行動によって戸惑って何を言えばいいのか言葉を選んでいる様子だった。
しかし、肝心の強い抵抗は見られずどこかそれさえも女の弱弱しさを感じる。
父のことで大変な中で、無理に母を求めようとは思わなかったから強く拒まれたら諦めるつもりだった。
そうしたら多分母の性格からして今夜のことは一生しまっておくことだろう。
けれど、その時の母はあまりに寂しそうで不安に押し潰されそうになっているように見えた。
一人の女として見てるし、母が欲しい。
いつまでも俯いたままの母は口の中でごにょごにょと言っている様子だったので顔を覗き込むように近づけて少し強引に唇を近づけた。
何をされるか分かった様子だった母は顔を背けるように横を向いたが、追いかけるように押し付けて強引に口づけた。
母の唇は想像していたより乾燥していてそして柔らかかった。
こすり合わせるように１，２度と唇を当てるたびに母は嫌々するように顔を振る。
これ以上は無理かと無念の思いを感じながら顔を離すと母の体を強く抱きしめた。
そこまですると急に部屋の中が静かになったように思えて付けっぱなしのテレビの音声だけが流れていた。
腕の中の母は小さく震えているのが分かった。
そこまで嫌だったかと思い、謝りながらそう尋ねると「こんなこと怖くて無理」と言った。
怖いから無理、ってことは嫌じゃないの？
言葉のアヤというか言葉尻を取るような言い方だったけれど、俺は尋ねた。
諦めるために母の言葉がはっきりと欲しかったのかもしれない。
しかし、母はもう一度「怖いわ‥」とだけ言った。
自分にとって母が嫌がることと恐れることは全然違った。
少なくとも俺はその時そう思った。
もう一度だけ俺は母に嫌じゃないって事？と聞くと母はもう何も答えなかった。

唇を重ねながら炬燵の中でそっと寝かせた母に覆いかぶさる。
まるで高校生カップルの初体験のように二人ともガチガチだった。
何度も唇を重ねた時も母は身を固くしていたがそれ以上は何も言わなかった。
上に着ていた母のセーターに手を掛けた時だけ初めて拒まれた。
やっぱり出来ないのか、それとも脱がされるのが嫌なのかと思い、少しだけ見ていたが母は横を見てこちらを見上げなかった。
何度もキスしながら母の胸を服越しにペッティングするだけの柔らかな愛撫を繰り返す。
上気したように顔を赤らめる母はそれでもこちらに顔を向けようとはしなかった。
いつまでも胸だけというわけにはいかないのは分かっていたけれど、無理に望んで母の気持ちが変わるのが怖かった。
そんなささやかな行為とはいえ、実の母親に愛撫しているという事実だけでひどく興奮を覚えて勃起していた。
ラチがあかないのでそっと炬燵の中で下半身を強く押し付けていくと母は母は自らゆっくりと両足を開いて腰を持ち上げてきた。
えっと思い、もう一度顔を見ても母は知らん顔で壁を見ていたが、何も言わなかった。
そのまま母の下半身に触れ下着を脱ぎ取ると、見えないように母は両足を広げて俺を受け入れる態勢になった。
「母ちゃん…」
小さく呼んでも母は何も答えなかったが、小さく頷いたように見えた。
そして母と俺は一つになっていた。
入ったときはっきりと母の胎内は揺らぐように震えているのが伝わってきた。

挿入した瞬間の感覚は凄かった。
痛いくらいに心臓の鼓動が早まって二人とも発作で死んでしまうかとも思った。
何度も母は俺の下でうわごとのように言っていたけど、ほとんど聞き取れなかった。
やがて限界が来たため全てを母に注ぎ込むつもりで母の胎内に射精していた。
既にその意味は無くなってたけど、母は本能的に鋭い喘ぎ声を上げて乱れていた。
実の肉親とのセックスはそのまま二度、三度と繰り返された。
その内に体力が限界になってきて気づいたら二人とも炬燵で寝てしまっていた。
目が覚めると驚くことに母は俺の腕の中にいた。
照れたようなほほ笑みと上気した顔はやっぱり皺はあったけどそれでも魅力的に映った。
もう一度だけ深く唇を重ねると、母は片手で目のあたりを覆って少し恥ずかしそうにしていた。
そして俺は何年振りかに母親に恋をした。

完