短編「悲しい雨」
- 2017/07/29
- 00:10

その昔、ブルーハーツは「無言電話のブルース」という歌を歌ってました。
歌の世界観が好きで、思い出しながら書きました。
本当は梅雨らしい6月にアップしようと思っていたんですが、忘れちゃってましたよ。
宜しければどうぞ。
「悲しい雨」
まだ肌寒い初春の日の事だ。
今でも冷たい雨が降る日にはいつも思い出す。
正午前の静かな時間に薄暗い家の廊下に置いてた黒電話のベルが鳴った。
受話器を取った父が深刻そうに何度か小さく頷いた後、母の具合が悪いからすぐに病院に行くと言った。
高校生だった僕の卒業式の二日前の事だった。
前年の秋から母は県内の大学病院に入院していた。
家から車で30分ほどかけて駆けつける途中、薄暗い空からフロントガラスにポツポツと陰気に降り続ける雨の滴をよく覚えている。
病室に着いた時には既に母は息を引き取っていた。
治療のため髪の毛が抜けやつれたその表情は元気だった頃の面影とすっかり変わっていた。
あまりに変わり果てた様子だった事と母の死という現実を見ていられず、廊下を歩いて入院患者用の休憩室で外を見ていた。
窓の外はまださっきの雨が降り続いていたが、何も考えることが出来なかった。
窓を流れ落ちる雨の滴がぐちゃぐちゃの頭の中に染み込んでくるような錯覚がした。
それから父が迎えに来るまでただただ雨を見ていた。
父は泣いていた。
僕も泣いていた。
母はどうも雨と縁がある人だったらしく、命日になったその日も、お通夜も出棺の時まで雨が降っていた。
そういえばかつて母と一度だけ交わった時も雨が降っていた。
まだ母の身体を蝕む病が分かるちょっと前の事だったけど、思えば母は長くないと薄々気づいていたのかもしれないと今は思う。
だから母は終ってから無理に犯した僕を励ますように背中を抱いてくれたんじゃないかと。
今日も雨が降っている。
完
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まだ肌寒い初春の日の事だ。
今でも冷たい雨が降る日にはいつも思い出す。
正午前の静かな時間に薄暗い家の廊下に置いてた黒電話のベルが鳴った。
受話器を取った父が深刻そうに何度か小さく頷いた後、母の具合が悪いからすぐに病院に行くと言った。
高校生だった僕の卒業式の二日前の事だった。
前年の秋から母は県内の大学病院に入院していた。
家から車で30分ほどかけて駆けつける途中、薄暗い空からフロントガラスにポツポツと陰気に降り続ける雨の滴をよく覚えている。
病室に着いた時には既に母は息を引き取っていた。
治療のため髪の毛が抜けやつれたその表情は元気だった頃の面影とすっかり変わっていた。
あまりに変わり果てた様子だった事と母の死という現実を見ていられず、廊下を歩いて入院患者用の休憩室で外を見ていた。
窓の外はまださっきの雨が降り続いていたが、何も考えることが出来なかった。
窓を流れ落ちる雨の滴がぐちゃぐちゃの頭の中に染み込んでくるような錯覚がした。
それから父が迎えに来るまでただただ雨を見ていた。
父は泣いていた。
僕も泣いていた。
母はどうも雨と縁がある人だったらしく、命日になったその日も、お通夜も出棺の時まで雨が降っていた。
そういえばかつて母と一度だけ交わった時も雨が降っていた。
まだ母の身体を蝕む病が分かるちょっと前の事だったけど、思えば母は長くないと薄々気づいていたのかもしれないと今は思う。
だから母は終ってから無理に犯した僕を励ますように背中を抱いてくれたんじゃないかと。
今日も雨が降っている。
完
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