みなさんは「リンダキューブ」というゲームはご存知でしょうか?
1995年にPCエンジン用RPGとして発売され、その後1997年にプレイステーションに移植、1998年にセガサターンで完全版が発売されています。現在プレーしようとするとPS3かPSVITAのプレイステーションアーカイブでしかプレー出来ないのが残念ですね。。
本作に母子相姦要素は登場しませんが、シナリオにおいて近親愛に根付く狂気をテーマにしているため、是非ご紹介したく思いまして。
私自身、小説の創作において大変強い影響を受けています。

このゲームはコマンド式RPGです。ドラクエとかFFとかああいうの。
ザックリ言うと、「時間制限のある殺伐としたポケモン」でだいたい合っています。
とある惑星に隕石が衝突することになったので主人公たちはそれまでに多くの動物を集め、宇宙船に載せる使命があります。動物たちは宇宙船に載せる以外にも売ったり、仲間にしたり、殺して肉を取って食べたり、皮をはいで装備を作ったり、遺伝子情報を取り込んで変身したりと色んな用途があります。
なおゲームデザインは天才桝田省治。
「俺の屍を越えてゆけ」「天外魔境Ⅱ」「メタルマックス」など殺伐・猥雑な世界観の作風で知られています。
インタビューで「長所は?」と聞かれて「頭が良いところ」と答える、そんな人。
このゲームは個人的に大変な衝撃を受けました。サターン版の発売日には雨の中買いに行って夢中になった記憶があります。
このゲームはRPGとしてもポケモンライクな収集システムが特徴的なのですが、ポイントはそのシナリオなのですね。
いわゆるサイコスリラーとされる展開で謎が謎を呼び、血で血を洗う展開です。
ちなみにメインシナリオは3つありまして、AとBとCはそれぞれパラレルの関係にあります。
(ものすごく重要。これが全体の深みを増しています)
大まかな設定はこんな感じ(ウィキより)
「リンダキューブの物語の舞台はネオ・ケニアと呼ばれる地球によく似た惑星である。惑星ネオ・ケニアは8年後、回避することが不可能な巨大隕石の衝突に見舞われ、壊滅的なダメージを受けることとなる。この星に住む主人公ケンは、恋人であるリンダと共に、ネオ・ケニアが壊滅するまでの8年の間に、できるだけたくさんの動物のつがいを収集し、箱舟と呼ばれる宇宙船と共にこの星から脱出することとなる」
主人公はいわゆる「あまり喋らない系主人公」ケン。
ケンは恋人のリンダに誘われるまま、動物を集めて宇宙船に載せるという役に立候補(させられ)、物語は始まります。

(↑話している男がレンジャー隊長ベン)
ここまではシナリオA.B.Cほとんど共通で一緒。

かなり長くなりますが、シナリオA「メリークリスマス」の解説に入ります。

(↑ピースサインの女の子がリンダ15歳。倒れているのがケン16歳)
「女の私でもレベル2なのに男のあなたがレベル1なんてあり得ない。レベル3になったら迎えに来て」
リンダに突然ぶん殴られた上でそう命じられて、一人レベル上げに勤しみレベル3にしたケン。
ついでにいくつか動物を捕まえたり、ゲーム内のルールもある程度把握する。
ようやくリンダの住む村に辿り着くと住民は全員失踪してしまっており、リンダも記憶喪失の状態ながら病院で見つかった。
本来の毒舌や暴力性が影をひそめ、嘘のようにしおらしくなってしまったリンダ。
彼女のため、やむを得ず大企業グリーン製薬へと治療薬を取りに行く。
グリーン製薬はエターナという町にあるこの世界で最大手の製薬会社である。
若き女社長エリザベスと側近パンハイム博士(老人)が応対してくれた。

(余談だが、白いクロスをかけたテーブルを前にしたエリザベスと会話、その後で机の中からパンハイムが出てくるシーンがある。その直前、エリザベスは軽く喘ぎ声を上げる。つまりテーブルの下でクンニしていたという演出)
しかし、肝心の記憶喪失の治療薬は生産中止となっており、仕方なく材料集めをすることになる(動物集めと並行)。
パンハイムは「大きな手術」をしないといけないらしく、材料を集めてから半年後にようやく薬が完成する。
しかし、今度はリンダが居なくなったと連絡を受けた。
謎の仮面の男と電話によって各地をたらい回しにされ、最後にはホスピコという町にある特別病棟に呼び出される。
指定されたドアを開けると、リンダの鼻歌でジングルベルが流れている。
そこにはサンタクロースの格好をしたケンそっくりの男と茫洋としたリンダ、見知らぬ男の死体があった。
サンタクロースの男は「ネク」と名乗った。
ケンの双子の弟だという。
そして見知らぬ男の死体は「ケンとネクの父親だ」と言った。

(ここから裏設定。ケンとネクは双子で幼い頃は一緒の村で暮らしていた。ある日正気を失った父親は二人の母親を含む村人の大量殺人を実行、逮捕されて精神病院に入れられた。ケンは一人のレンジャー隊員に引き取られ、ネクは別の場所に引き取られた)
レンジャー隊員の息子として厳しくも愛情持って育てられたケンと違い、ネクが引き取られた場所はひどいものだったらしい。
「自分だけ幸せに育って可愛い恋人もいるケンが憎い」
そう言うネクはリンダに血の付いたナイフを手渡すと姿を消した。
そこに駆けつけるレンジャー隊員たち。
意識が混濁しているリンダは無実を訴える事も出来ず、殺人容疑で逮捕されてしまう。
リンダの容疑を晴らすため、事件解決に乗り出すことになる。
その後病院から再びリンダの姿が無くなったと連絡が入った。
ケンそっくりの男が連れ出したのだという。
その時に監視につけていた二人のレンジャー隊員が刺殺されたとも。
(この時ケンは隊長のベンと会話している時だったため、アリバイは成立。ケンそっくりの真の殺人犯の存在をベンも信じてくれる)。
そこにケンの養母ミームに「いいから来ておくれ」と呼び出されて実家に戻った。
リンダはケンの自宅前のブランコで眠っているところを発見されたらしい。
記憶はまだ完全ではないが、身体は元気なようだ。
この時、レンジャー隊長のベンが便宜を図り、一時的にリンダをレンジャー隊員として扱い殺人手配の目を逃れさせることにした。
殺人事件を追う事と並行してリンダの記憶の回復のため、各地の思い出の場所を巡り彼女に刺激を与えながら旅をすることになる。
幼い頃二人で乗った庭のブランコのこと。
リンダの部屋でプロレスごっこをした時、偶然友達の脚をリンダが折ってしまいケンが庇ったこと。
(なお他にもプロレスごっこをしている時、別の友達の腕をキイロックで折ってしまった事があるらしい。ちなみに脚を折られた友達はジョンで腕を折られたのはジャン)
ケンとリンダがお医者さんごっこした際に脱がそうとしたケンを思いっきりぶん殴ったこと。
とある木に二人の名前を彫って、その後リンダにおもちゃの指輪を送ったこと。
リンダが自宅から連れ去られた時、二人のサンタクロースが話してたこと。
他愛もない事から重要な事までリンダは少しずつ思い出していく。
やがてリンダの実父であるヒュームから連絡が入った。
久しぶりに会いたいが、あいにく動けないので来て欲しい、と。
尋ねた町でヒュームはベッドに横たわっていた。

リンダの実父ヒュームは黒人の男性で色白のリンダと肌の色は全く似ていない。
(この時言わなかったがリンダもそう思ったという)。
「変なサンタが連れていたリンダを奪い返して、ケンの家の前のブランコに連れて行ったのは自分だった。その時に腹にキツいのを一発貰ってこのざまだ」
「動けるようになったら自分も応援に行くからそれまでリンダを頼んだ」
部屋を出て行こうとするケンとリンダにヒュームは最後に声をかけた。
「それにしてもお前ら似合いのカップルだな。愛し合う二人はいつも一緒。それが何より幸せだって俺は思うぜ」
その後、ネクから連絡が入ってとある廃村の教会に呼び出される。
(ケンとネクが生まれ育ち、父親が全ての村人を虐殺した村)
「今日は子供の頃遊べなかった分をたっぷり取り返そうぜ」
そう言って、ゲームを始めさせられる。
教会から脱出する鬼ごっこ。
賞品はリンダの記憶回復薬一年分。
鬼は「俺の友達」がやる、という。
「鐘が三つ鳴るまでは鬼は追いかけないから、逃げるなら今の内だぜ」
そう言い残してネクは姿を消した。
「ずいぶん楽しい弟さんね」
呆れたようにリンダが言う。
鐘はあっさりと三回突かれ、ネクの友達の獰猛な犬たちが襲い掛かってきた。
なんとか脱出するとネクが待っていた。
芝居がかった口調で「お礼が言えまちゅか?」とネクが口にすると、リンダは特別病棟の時みたいに自我が消えて人形のようになってしまう。
ネクは催眠術の使い手でキーワードを口にすると、心を操れるのだという。
さらに万全を期して意識操作出来るクスリも併用しているらしい。
追いかけようとするとネクは大勢の猟犬をけしかけてリンダを連れ去っていった。
大量の猟犬に囲まれ絶体絶命の状況に陥ったその時、ヒュームが現れた。
圧倒的な腕力を振るい、犬たちを蹴散らしてくれる。
まだ傷は痛むようだが何とか戦えるようだ。
ここでリンダの父、ヒュームが仲間に入って二人で冒険することになった。
色白のリンダと違ってヒュームは黒人の大柄なハンターだ。
動物ハンターとしての経験も豊富だが、この時点ではリンダの母親アンと既に離婚しているので苗字が異なる。
(町の人物との会話で分かるが、ヒュームはリンダと肌の色が違う事をひどく気にしていたらしい。この世界においてはリンダの肌の色は優性だから遺伝しにくいし、遺伝子検査でも親子関係は99%立証されていたが、ヒュームは納得出来なかった。また養育費を払うためにかなり無理して精神が高揚する薬ハッスルⅡを服用してハンター業に勤しんでいたという。その薬は副作用があって精神異常を招くとも)
ヒュームを伴ってレンジャーオフィスを訪ね、隊長のベンに知恵を借りに行く。
ベンは電波受信器を手渡してきた。
「全ての隊員の制服には発信機が着けられているので、これで辿れるはずだ」と。
しかし、ヒュームはベンがリンダを囮捜査に使ったと思いこみ、怒りを露わにする。
オフィスを出ていこうとする二人をベンは呼び止める。
「何を考えたんだが知らないが、俺はリンダを囮に使ったつもりなんて無い。他の隊員が集まり次第俺もすぐに駆け付ける」
その言葉を受けてヒュームも少し言い過ぎたと謝罪し、期待しないで応援を待っていると話した。
最後にもう一つだけベンは言葉を続ける。
「そういやヒューム。あの失踪事件以来、(ヒュームの元嫁の)アンも行方不明だけど……この事件が片付いたら俺がアンに復縁を取り持ってやってもいいぞ」
「ありがてぇけど……俺たちはもう手遅れさ。でも……アンはいつでも胸の中にいるんだ。今の俺にはそれで十分よ」
「お前がそういうつもりなら他人が口を出すことじゃねぇな」
二人はオフィスを出て行った。
電波受信機がキャッチした発信元はエターナ。
グリーン製薬の本社、エリザベスとパンハイムのいる町だった。
こうして、この世界で起きていた原住民の失踪事件の真実に辿り着いた。
しばらく前から原住民ビースチャンがさらわれる事件が頻発していた。
実行犯はネク。
それを指示していたのはグリーン製薬の社長エリザベスだった。
この惑星の原住民ビースチャン(リンダもそう)の死体からは特殊なエキスが取れ、パンハイムが薬に生成すると若さを保つ薬が出来たからだ。
永遠の若さ、エターナル。
そこからこの町の名前は取られている。
エリザベスは若返りの薬欲しさにネクを利用して原住民をさらわせていたのだ。
グリーン製薬の本社前に辿り着いたケンとヒューム。
(エターナはエリザベスの趣味で年中クリスマスなので、ここで二人ともサンタクロースに着替える)
「別々の入口から入って挟み撃ちにしよう」というヒュームと一旦分かれて、ケン一人で屋敷に踏み込む。


するとエリザベスは開き直ったような態度を見せ、ネクを差し向けようとする。
しかし、ネクは裏切ってエリザベスを刺殺。
その途端エリザベスは若さが失われ、本来の老婆の姿に戻って死亡した。
(傍らのパンハイム博士は何もすることが出来ず、茫然と立ち尽くすのみだが事件後逮捕された。)
決着を付けようと二人はテラスで対面した。
勝った方がリンダと一緒に方舟(宇宙船)に乗る「ケン」になる。
「俺はね、兄ちゃん。あんたが学校に行ったり友達と遊んだりしてた頃……死体を探してたんだ。ママ(エリザベス)の喜ぶ顔が見たくてさ」
「死体集めは辛かったよ。それにあの頃の俺は真面目でさ。手を抜く方法も知らなかった。死体はね、探すより作る方がずーっと簡単だって事にもっと早く気づいてればなぁ」
「もっと早く気づいていればさ。学校だって行けた。友達だって出来た。サッカーだってやれたんだよ…リンダみたいな…リンダみたいな……」
「兄ちゃん!あんただけずるいよ!だからそろそろ……選手を交代してくれてもいいだろ?」

殴りかかるケン。
しかし苛烈な人生を送ってきたネクは戦闘力が高く、相当な力の差があった。
ネクはからかうように周囲を飛び跳ね、時折ケンを蹴り倒す。
ケンが本気で戦っているのかは分からないが、全く勝負になっていないまま数分間が流れる。
「兄ちゃん」
ネクはケンをずっとそう呼んでいた。
小馬鹿にしているようにも、本当に慕っているようにも聞こえる。
幸せな人生を歩んできた兄を恨めしく思っているはずなのに。
「遊びは終わりだ」
ケンに止めをさそうとするネク。
しかし、そこに一人の大男が乱入した。

仮面をつけたサンタクロース姿の大男はネクの背後からナタのような刃物で貫く。
苦し気にネクは言う。
「あ、あれぇ……お、おい。間違えんなよ。俺はネクだよ……」
しかし大男は一度鉈を引き抜くと再びネクを貫いた。
「わかっててやってんのか!?なんでだよ!リンダは俺にくれるって言ったじゃねぇか!」
叫ぶネクを今度は真正面から突き刺すと傍らに放り投げた。
大男は目線を外すとリンダに向き直る。
仮面で表情は見えないが、そのままナタを振り上げて……。
その時、倒れていたネクが大男のブーツを掴んだ。
「リンダまであの人みたいにするつもりかよ……させるか!兄ちゃん、早くリンダを連れて逃げるんだ!」
大男は倒れているネクの背中に何度もナタを突き立てた。
一、二、三回……血溜まりが広がっていく。
そこにベンが率いるレンジャー部隊の隊員たちが大勢駆けつけた。
すると大男はテラスから身軽に飛び降りて逃げていった。
大量の出血の中、息も絶え絶えのネクはケンに声を掛ける。
「兄ちゃん…リンダは…ケガしてないか?」
「あぁ…これ、みんな俺の血か?これじゃ助かりっこねぇよ…」
「動物をさ。俺も何匹が捕まえて宇宙船に積んだんだ。リンダと兄ちゃんにやるよ」
「生きたまま……捕まえるのってけっこう難しいよなあ?」
(余談:このゲームは動物を捕まえる時、攻撃力が高すぎると勢い余って殺してしまう)

力尽きる前にネクはリンダの催眠術を解く方法を教えてくれる。
「兄ちゃんは死んでも言わない。だけどリンダは10年も前からその言葉を死ぬほど聞きたがっている。分かるだろう?俺が代わりに言うつもりだったのに……うまくいかねぇなぁ……」
絶命したネクの脇でケンはリンダを抱きかかえて叫んだ。
「世界中で一番お前が好きだ!」
二人は幸せなキスをして、レンジャー隊員達は万歳三唱して祝福する。
レンジャー部隊のオフィスに戻ったケンは隊長のベンと事件について話していた。
ベンは大口を叩きながら姿を見せなかったヒュームの悪口を言っている。
失われていたリンダの記憶もケンが洗脳を解いたお陰で完全に戻っていた。
そこに電話が鳴り、音声がオフィスに流れ始める。
リンダの母、アンが何者かに暴行を受けているようだった。
殴打音とアンの悲鳴がオフィスに響く。
リンダの父ヒュームは必死に止めようとしているようだが、出来ないようだった。
ボイスチェンジャーを使った不気味な男の声で言った。
「両親を返してほしければグリーン製薬の無人工場まで来い」
メッセージが終わった後、ベンが言った。
「どうせお前たちの事だ。止めても助けに行くんだろ?探す手間を省いてやるよ」
「実はヒュームの背中にも発信機がなぜか付いているんだ。どっかの小細工好きの男が呼び止めるフリして取り付けたんだろうよ」
(逮捕されたパンハイムの供述:エリザベスと出会ったのは彼女が28歳で自分が26歳。彼女に恋をしたが、エリザベスが興味を持っているのは自分の美貌と若さを保つ事だけだった。なぜならエリザベスは結婚してすぐに亡くした夫といつまでも同じ年でいたかったからだ。パンハイムは一度でも自分の想いをエリザベスに伝えていたら……今になってそう悔やんでいた。その後彼は独房で自殺する。壁に「LOVE FOREVER」と自分の血で書き残して)
グリーン製薬の無人工場。
待っていたのはあの仮面をつけたサンタクロース姿の大男だった。
無言で戦闘に入り、何とか勝利すると……。

「やっぱり2対1じゃ分が悪いな。さて、約束通りまずはパパに会わせてあげよう」
そう言って仮面に手をかける男。
しかしなかなか外れないので、拳で仮面をたたき割る。

そこにはよだれを垂らして目の焦点もあってないヒュームの顔があった。
悲鳴のような知恵足らずの子供のような奇声を発している。
「さぁて次はママだ……あれ?ママはどこだ?アン、いないのか?」
「あぁ~~、ママは行方不明か……すまないなぁ、リンダ。パパが甲斐性無しだからママに逃げられてしまったよ」
ヒュームは正気と狂気の間を行ったり来たりしているように甲高い芝居がかった声と普段の声色を繰り返す。
涙を流しながらサンタクロースの上着のボタンを外していくヒューム。

そこにはヒュームの上半身に上半身だけ同化させられたアンがいた。
息を飲むリンダ。

「あれぇ?こんなところにいたのか?愛し合う二人はいつも一緒。そいつが何よりだ、そうだろう?アン?」
かろうじて意識があるのか、アンは顔を上げて言った。
「早く逃げるのよ二人とも……ヒュームには勝てない……」
その時ヒュームは苛立ったように両腕を閉じてアンの顔面を強打する。
顔から血が流してアンはぐったりとうつむいてしまう。
「うっせえんだよ、このアマは……」
「ああああーーーっ!!誰だ!?俺のアンをこんな目に!ひどいよ、血が出てるよぉ……死ぬなアン!」
「誰だ……誰がやった……お前ら……お前らだな!?よくも俺のアンを……ぶっ殺してやる!」
(この3つのセリフ全部ヒュームが言っているんだけどどれも全然声色が違う)
シナリオA最終戦へ。

勝利後、ヒュームは正気を取り戻していた。
いや、ずっと正気だったのかもしれない。
「強いなぁ…リンダ。やっぱりお前は俺の子じゃないのかなあ」
「何でこんなことになってしまったんだろう…俺はずっとアンと一緒に居たかっただけなのに……そばにいて欲しかった。それだけなんだ」
「リンダと俺の肌の色が違っても、俺はリンダの事を愛してた。本当さ」
フラフラと歩くヒュームは不気味な色をした大きな水槽の前に立った。

背中を向けたヒュームはケンに言う。
「なぁ、ケン。リンダはいい子だろ?本当にいい子だ…やっぱり…俺の子だよなあ…」
そう言って片手を挙げたヒュームは水槽に飛び降りる。
少しすると水槽に頭蓋骨がプカッと浮かび上がった。
全ての事件終結後、レンジャー部隊の隊長ベンは二人に謝罪した。
ケンもリンダもこの一連の事件でどれだけ傷ついたか、人間不信になってしまったかよく分かっていると。
「だけどな…俺は覚えているんだ。リンダが生まれた時のヒュームの嬉しそうな顔をよ。あの顔に嘘は無かった。そう信じたいんだ…分かるな?」
「信じたからって今さら何も変わりはしないんだけど、その方が楽に生きていける。人生の残りが見え始めるとこういう悲しいだけの小細工を毎日考え付くんだ…馬鹿みたいだな…」
ベンはグリーン製薬の悪事だけでなく、ヒュームの暴走も薄々感づいており密かにヒュームを疑い裏を探っていたのだ。
全てを終えたケンとリンダの二人は必要な動物たちを集めると宇宙船に乗り込んだ……。
(シナリオA終わり)
いやぁ……辛く悲しいシナリオですよね。
本作はエグくてグロいという評判が先に立ちますが、実際は不器用で愚かな人間の悲哀と人間賛歌がテーマだと思いますね。
自分の中ではベストRPGです。
最初に言ったようにリンダキューブから私はかなり影響を受けています。
悲劇的な近親相姦、ほろ苦い近親相姦を好むのもこの作品の影響がかなり強いんですね。
小細工好きな人間味あふれる隊長ベン。
過酷な運命を辿った殺人者ネク。
エリザベス、パンハイムという癖のある脇役たち。
そして不器用過ぎるヒュームがたどり着いた狂気。
先も触れましたが、彼の狂気は精神を高揚する薬の副作用らしいとゲーム中盤で語られるのですが、別のとある人物のセリフで「ヒュームはその薬を使っていなかった」とも言うんですね。
つまり一連の狂気は彼の思い込みの暴走だったとも示唆している、という。
(補足:最初にリンダの記憶喪失の薬を貰いにいくとき、パンハイムは「大きな手術がある」と言ってましたが、これはヒュームの上半身にアンの上半身を融合させる手術を指していると思われます。その後ヒュームと初めて出会った時、ベッドで動けないのも術後だから。この時ヒュームは誘拐犯の変なサンタ(ネク)と戦って刺されたと言ってますが、これは嘘です。この時点ではグリーン製薬とネク、ヒュームは共犯なんですね。最初のリンダの村の失踪事件もネクとヒュームによるものです。集落の住民(ビースチャン)はネクの催眠術によってグリーン製薬に連れて行かれ、この時アンだけはヒュームがもらい受けました。この前にヒュームはパンハイムにアンを自分の上半身に移植するよう依頼したと思われます。後に独房でパンハイムは二人に謝罪します)
こうした重いシナリオと上手くゲーム上の動物集めとリンクしているんですよね。
動物を集めるほどにイベントが進んでポケベル風のメッセージ受信器で次の指令(イベント)が来るので、テンポも良いし。
(補足:ちなみにヒュームが一時的に仲間になる場面ですが、この時すでにアンを自分の上半身に取り込んでいるので野営するとどこからともなくアンの声が聞こえるんですよ。二回目にプレーすると、この時点でとっくに一線を越えてたんだと分かるだけにゾッとしますね。一応ヒュームはネクと同じようにその力を見込まれグリーン製薬に雇われていて、協力関係にあったようですが最後までまともに付き合うつもりは無かった様です)。
余談1 ヒュームの声優は二又一成氏。個人的に彼の甲高いダミ声を聞くと、「キン肉マン」のキン骨マンか「ハイスクール奇面組」の出瀬潔が浮かんでくる。後、「めぞん一刻」の五代も有名。
余談2 リンダの声優は高山みなみ氏。言わずと知れた名探偵コナンの人。本作では幅広い演技力の高さを見せつけられます
余談3 ヒュームがキレたきっかけは元妻アンの再婚が決まりかけていたため、らしい。
再婚相手はまったく未登場なので、おそらく同じく行方不明になった集落のビースチャンの男だと思われます。
またケンの養父とアンは若い頃に良い仲だった時期があるらしく、それもヒュームの疑いを招いていた(ケンの養父は元レンジャー隊長で当時隊員だったヒュームと揉めた過去もある)。
余談4 シナリオAでは影が薄いが、ケンの養母ミームはルックスも声優さんもジャイアンの母ちゃん。善良な口うるさいおばちゃんで良い味を出してます。シナリオBで大活躍。
余談5 ヒュームはHum。アンはAn。繋げて読んでHUMAN(人間)。
余談6 リンダはLINDA。ReNDAとも。遺伝子の書き換えを意味する。
余談7 ケンはKEN。逆から読むとNEK、つまりネク。
……といった具合に裏設定や考察、余談も大変楽しい作品です。
当時大ハマりして世界観やキャラ設定、裏設定から考察に至るまで夢中になりゲームデザイナー桝田省治の名前に天才を冠するようになりました。
桝田氏はこの後「俺の屍を越えてゆけ」で名声をさらに高めてからは評判が落ちる作品を連発しており、寂しい限りです。。
もしあなたにその気があるならプレイステーションvitaかプレステ3を購入し、ゲームアーカイブで遊ぶのが一番の近道でしょう。「完全版」を謳ったサターン版がベストですが、なかなか手に入らないだろうし。
今こそスチームとかで出すべきなんですけれどねぇ。
近々シナリオB「ハッピーチャイルド」の解説もします。
こちらもシナリオAとは違うベクトルに強烈で印象深い物語です。
こうご期待ください。
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